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オーディオマニアの定番優秀録音女性ヴォーカル・マラソン・レビューvol.3 Jane Monheit /Taking a Chance of Love

第三回を書き始めるにあたって、僕は少々困ったことになったと思った。それはアル・シュミットがレコーディングやミキシングに、あるいはその両方に関わった作品が多すぎるからだ。定番には定番なりの理由がある。まず絶対的に音が良いことと、なにがしかの特徴を持っていることだ。その音の良さというものは、プロデューサーやエンジニアたちの腕にかかっているわけで、特定の名前が出てきやすい。それがアル・シュミットだったというわけだ。しかし僕は開き直ることにした。なぜなら、グラミーを11回も獲っているような人物の作品が無視されることもまたないだろうからだ。

ジェーン・モンハイトは1998年のセロニアス・モンクコンペティションに入賞して注目され華々しくデビューし、ダイアナ・クラールの次の世代を担うジャズ・シンガーの一人として活躍している。今回取り上げるのはテイキング・ア・チャンス・オブ・ラブ。MGM社のミュージカル映画で使われた曲を選んで録音している。著名な映画が多いため僕のような世代でも当たり前に知っている曲がいくつか並んでいる。所有しているのは輸入盤でSK 92495とある。このアルバムにはジャケット違いのものがあり、こちらの方が薄着となっている。

この作品は発表された当時、試聴会などでひっぱりだこだったようで、特に一曲目のHoneysuckle Roseがよく使われたという。なるほど、出だしのウッドベースの軽快かつ重厚なノリの良い音は参加者を引き付けるのに効果的だ。しかもイントロのすぐ後にジェーンの可憐かつ確かな技術を持った歌唱が入ってくるとなればデモンストレーションにぴったりの曲だ。

肝心の録音の方はというとちょっとリッチでお金がかかっているような印象を受けるのだが、それにしてはいやらしくない、自然な音が素晴らしい。アタック感が気になるドラムやピアノ、ウッドベースといった楽器も過剰な演出を受けることなく、いかにも普通なのだがとてもよい音という、ブロガー泣かせの録音に仕上がっている。もちろん、ジェーン・モンハイトのヴォーカルは伸びやかでごく自然に曲の世界に引き込まれる確かな素養を持っている。一番の武器は癖のないストレートな声質だろう。可憐さと妖艶さを行ったり来たりしながらアルバムを通して楽しませてくれる。アル・シュミットありきの歌手でないことは間違いない。

アル・シュミットはレコーディングに必要ななこととしてトランスペアレンシー(透明感)を挙げているが、ようは楽器の空気感や遠近感のことで、楽器が混濁するのを避けるために気を使うそうだ。なるほど、このアルバムでもストリングスもの、デュエットものなどさまざまな編成の曲が並ぶが、そういった諸要素を忘れて、ただ楽しませてくれるところにこの作品の価値の一端があるように思う。

アルバムジャケットが気に入った方もそうでない方も是非聴いてもらいたい一枚。

Taking a Chance on Love
Taking a Chance on Love
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Jane Monheit
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