Bedroom Audio Style

寝室で、気負わずに良い音と気持ちの良い住環境を求めていくトコロです。

オーディオマニアの定番優秀録音女性ヴォーカル・マラソン・レビューvol.4 DIANA KRALL live in paris(ダイアナクラール ライヴ・イン・パリ)

前回のvol.3からだいぶ時間が空いてしまってマラソンでもなんでもない連続ものになってしまった。マイルスのマラソンセッションにあやかって、サクッと四枚紹介して終わるはずが、このありさまでは僕自身が納得いかないということで、他の記事も交えつつ、もう少し続けることにした。

第四回はこれぞという一枚を紹介。と言っても紹介しなくたって知ってるだろう……との声が聞かれそうだ。だいたい、このサイトを見に来るような御仁は僕の個人的な知り合いか、オーディオマニアか、SS-6Bが気になっているミュージシャン系の人だけだと思うので、高確率でもう知ってる状態。新しい切り口で行かないとヤバい、と焦りながらキーボードを打っている次第。

ダイアナ・クラールのライヴ・イン・パリです、これで済ませたい。それほどの名盤。演奏、録音すべて良し。ギターがアンソニー・ウィルソン、ベースにジョン・クレイトン、ドラムはジェフ・ハミルトンと、旧知のメンバー。プロデューサーとエンジニアにトミー・リピューマ&アル・シュミット。UCCV-1036の国内盤。

まず何に驚いたって、冒頭の拍手の生々しさ。ここの数秒だけでリファレンスソフトになる録音の素晴らしさ。これから素晴らしい演奏が聴けるのだという予感に満ちている拍手の音で、その期待をダイアナ・クラールとメンバーたちは裏切らない。拍手の生っぽさは僕が聴いたライヴ録音でトップクラスにあるのではないか。そして発せられるダイアナのソリッドな声。僕が初めて聴いたTHE LOOK OF LOVEでは非常に中性的で端正な色男の、砕けた言い方をするならイケメンボイスだったが、このライヴ・イン・パリでは中性的な怪しさや色気がそぎ落とされ、歌心や心情の真に迫るような歌い方をしている。また、ライヴとは思えぬほどの落ち着きとリラックス感があるのも興味深い。曲のバリエーションも豊富でボサノヴァ、withストリングス、インストと盛りだくさん。どれも破綻させることのない多才さには呆れるほどだ。

序盤のスウィンギーで楽しい雰囲気から後半はしっとりとした曲調に変化していき、アンコールのジョニ・ミッチェルのカヴァー、A CASE OF YOUでは思わず落涙させられるほど素晴らしい歌唱と演奏を届けてくれる。どんな気分の時でもどんな聴き方をしても、このライヴ・イン・パリは貴方の味方になってくれる。そういう類のアルバムだ。

Live in Paris
Live in Paris
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Diana Krall
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僕がもう少し若かった頃にダイアナ・クラールは飛ぶ鳥を落とす勢いで出世して歌姫の座を揺るぎないものにした。当時、美女ヴォーカル好きのおじさんたちは我先に飛びついて音源を買っていた。僕は傍目でそれを見ながら、こんなおっさんにはなるまいと思っていたが、知らぬ間になっていた。そして美女ヴォーカル好きのおっさんとなっても何の後悔もないのである。なぜならエロスだとか萌えだとか色気に艶、そんなうわべの形はとりあえず窓から投げ捨て、演奏者と音楽と聴衆の素晴らしい交歓の形がライヴ・イン・パリには刻まれているのを知ったからだ。