Bedroom Audio Style

寝室で、気負わずに良い音と気持ちの良い住環境を求めていくトコロです。

LUXMAN D-600s 一枚のCDから始まる話

現用のCDプレーヤーであるD-600sはある一枚のCDから購入を決めたという経緯がある。2001年か2002年か詳しくは憶えていないが、プログレッシヴ・ロックバンド、YESの「リレイヤー」をリマスターしたHDCD盤をそれと知らず入手して、その音質に驚いたのだ。今までの経験では聴いたことがなかった太く厚いサウンドに感嘆して、このシリーズを集めようと心に決めた。いまだから言えるけれどもリレイヤー自体の音質はシリーズの中でも良い方だとは言えない。それでも驚嘆したのだから音楽もオーディオもまだまだ聴いていなかったのだ。それは今現在もなのだが。

少し話が逸れた。YESのHDCDリマスター盤を集めるにあたって、大きな問題があった。それは言うまでもなくHDCD対応プレーヤーを持っていないことだった。HDCDは通常のCDと互換性があるが、HDCDデコーダーを通さなければ本来の形で再生されない。しかしそう次々とCDプレーヤーを買い換えるような財力も熱意もなく、ソフトが集まってからでよいとのんびり構えていた。それから数年後の2005年にD-600sを購入することになる。その頃は暇さえあればオーディオ店のサイトを巡回して、中古商品の在庫チェックを日課とするような一端のオーディオマニアになっていた。そこで見つけたのがD-600s。HDCDデコーダー搭載のCD専用機だ。時はすでにSACDでなければマニアにあらず、でなければDAPでMP3でも聴いていればよいという風潮があった。多分に僕の色眼鏡が入っているかもしれないが、偽らざる心境だ。新しく発売されるプレーヤーは皆押し並べてSACD/CDプレーヤーでHDCDデコーダー搭載機は新品ではほとんど見かけなくなっていた。廃れていくのが目に見えているHDCD機を積極果敢に買いに走らせたものは、ただ全てのCDを本来の姿で再生させたいと願う思いに他ならない。そして常に頭にあったのはYESのHDCDリマスターであり、リレイヤーだった。

D-600sは20ビットDACHDCDデコーダーを搭載したCDプレーヤーで1997年の発売。僕にとっては初のマルチビット機だ。それまでMARANTZのCD-6000oseやCD-19を使用していた。言わば、1ビットDACの音に慣れきっていた状態だった。初めて自宅でD-600sの音出しをしたときは、あまりにもやっと霧がかかった様なサウンドステージにがっかりして、酷く落胆した。しかし何度も聴くに従って、霧のようなものが楽器の響きであり、広くゆったりとした空間を響きで満たしていくような描き方をしているのだと気づいた。逆にそれまで使用していたCD-19が無音の空間に音を浮かび上がらせるような描き方だったのだと理解するようになって、オーディオの深淵を垣間見た気がした。

トーンは暖色系で柔らかめ、ステージイメージは空間を左右奥に深くとり、ゆったり聴かせるタイプ。切れ味鋭いといった傾向はないが、ただ丸く眠いだけのプレーヤーではなく、出すべき音はきっちり出している。深い低域が印象的。電源ケーブルは着脱式で、これの交換によって印象も大分変化する。また足元の状態にもよく反応し、硬いボードやインシュを噛ませると途端にソリッドな顔も覗かせる。


HDCDを再生したときのカチッと鳴るスイッチの音と赤いランプがキュート。この時代のラックスの顎デザインは発想が面白くて好きだ。


1997年ごろのラックスはラックスとしては求めやすい価格のアンプやプレーヤーを製造していて、このD-600sもその流れで発売された。プレーヤーとして最廉価ながら、滑らかな動きのディスクトレイなど随所に高級感を漂わせるのがよい。